はじめに

暗号資産(仮想通貨)を巡る制度は今後どうなるのか? 歴史、法制度、税務などの観点から解説

かつては一部の技術者や投資家の間で語られるに過ぎなかった、ビットコインやイーサリアムなどの「暗号資産(仮想通貨)」は、今や決済手段や新たな資産のかたちとして広く認識されつつあります。

しかし、暗号資産の革新的な技術と可能性が注目される一方で、その基盤となるブロックチェーン技術の急速な発展スピードに対して既存の法制度や税制の整備が追いついておらず、様々な歪みが生じているのも事実です。

このギャップを埋めるため、日本を含め世界各国で、現在、法改正や新たな規制枠組みの構築が急ピッチで進められています。特に日本においては、現在進行中である令和8年度(2026年度)税制改正に向けた議論の中で、暗号資産に係る税務上の取り扱いについて、抜本的な見直しが検討されている状況です。

本記事では、暗号資産が誕生してから現在に至るまでの歴史的な経緯を概観し、特に日本における法的な位置づけと税務上の取り扱いの変遷に焦点を当てて解説します。

暗号資産とは

暗号資産とは

暗号資産とは、「分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology)」、その代表例である「ブロックチェーン」を基盤とする、特定の国家や中央銀行による価値の裏付けを持たない、暗号技術によって真正性が担保された「デジタル上の価値記録・移転手段」のことです。

利用者は、「交換所」や「取引所」と呼ばれる交換事業者を通じて、円やドルなどの法定通貨と暗号資産を交換したり、暗号資産同士を交換したりすることで、入手・換金できます。

日本の法律においては、暗号資産は現在、以下のように定義されています。

資金決済法第二条第14項

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(中略)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

出典:e-Gov「資金決済法 第二条第14項」

この定義からも分かるように、現在の日本の法制度上、暗号資産は主に「決済手段」として捉えられているのが特徴です。

暗号資産の特徴

暗号資産の特徴

法定通貨、株式、債券、不動産といった他の伝統的な資産と比較した場合、暗号資産には、以下のような際立った特徴が存在します。

  • 非中央集権性
  • ボーダーレスな移転
  • 発行上限による希少性
  • 透明性と匿名性

非中央集権性

法定通貨が、日本銀行などの中央銀行によって発行・管理され、株式が証券保管振替機構や発行体企業によって管理されるのとは対照的に、多くの暗号資産は特定の管理主体(中央管理者)が存在しません。

ブロックチェーンというネットワーク参加者全員で取引記録を共有・承認する仕組みにより、特定の政府や金融機関による意図的な操作や取引停止のリスクを受けにくい構造を持っている点が特徴です。

ボーダーレスな移転

暗号資産は、インターネット環境さえあれば、原則として24時間365日、国境を越えて価値を移転することが可能です。

伝統的な国際送金システムが、銀行の営業日や時間、高額な手数料といった制約を受けるのに比べ、時間的・地理的な制約が極めて少ない点は大きな利点といえるでしょう。

発行上限による希少性

例えば、代表的な暗号資産であるビットコインは、プログラムによって、発行総量が約2,100万枚とあらかじめ定められています。

すべての暗号資産に発行上限が設定されているわけではありませんが、金融政策の必要に応じて発行量が調整される法定通貨とは異なり、一部の暗号資産は、恣意的な追加発行による価値の希薄化リスクが原理的に存在しません。

この性質から、特にビットコインは、同じく希少性が将来にわたって担保されている金(ゴールド)になぞらえて「デジタル・ゴールド」とも呼ばれます。

透明性と匿名性

多くの暗号資産の取引記録は、ブロックチェーンという公開された台帳上に記録され、誰でも閲覧が可能となっています。この透明性により、取引の公正性が担保される仕組みです。

一方で、取引は「アドレス」と呼ばれる英数字の羅列によって行われ、そのアドレスと現実世界の個人情報が直接結びつくわけではないため、特定の情報機関に依存しない一定の匿名性を保持しているとされます。

暗号資産が持つリスク

暗号資産が持つリスク

法定通貨や株式といった、他の伝統的資産に比べて多くの長所を持つ暗号資産ですが、これらの特徴は、裏を返せばデメリットやリスクにもなり得ます。例えば、暗号資産が持つリスクとしては、以下のような点が挙げられます

  • 価格変動リスク
  • セキュリティリスク
  • 法的位置付けのあいまいさ
  • 銘柄の多様性がもたらすリスク

価格変動リスク

暗号資産は、その価値を裏付ける実物資産や国家の信用を持たないケースがほとんどです。また、需給バランスや市場参加者の心理、規制当局の動向などによっても、価格が極めて激しく変動します。短期間で大きな利益を得る可能性がある反面、巨額の損失を被るリスクも常に伴うことを認識せねばなりません。

また、非中央集権的であるということは、裏を返せば、トラブルが発生した際に保護してくれる中央管理者がいないことを意味します。例えば、パスワードのようなものに当たる「秘密鍵」を紛失すれば、その暗号資産にアクセスすることは永久に不可能となり、その損失は誰も補償してくれません。暗号資産は、資産管理の全責任が利用者自身に委ねられる世界といえるでしょう。

セキュリティリスク

暗号資産そのものの暗号技術が強固であっても、利用者が暗号資産を管理するウォレットの秘密鍵を盗まれたり、取引を行う暗号資産交換業者がサイバー攻撃を受けたりするリスクが存在します。

例えば、北朝鮮の制裁逃れを摘発するMSMT(多国間制裁監視チーム)が公表した報告書によれば、2024年1月~9月の間に約28億ドル(約4,200億円)分の暗号資産が、北朝鮮のサイバー活動によって窃取されたことが判明しています。

また、FBIの推計によれば、暗号資産関連の詐欺による被害総額(2023年)は、米国だけで年間約56億ドル(約8,000億円)に上るとされています。

出典:外務省「多国間制裁監視チーム(MSMT)第2回報告書の公表」
出典:FBI「2023 Cryptocurrency Fraud Report」

法的位置付けのあいまいさ

暗号資産は、日本の資金決済法では「決済手段」として定義されていますが、これが民法上の「財産」としてどのような性質を持つのか、例えば「物権」にあたるのか、担保権設定は可能かなどの課題については、法的な議論が尽くされていないのが実情です。

各国・地域においても、暗号資産をどのように取り扱うかは、いまだ試行錯誤を繰り返しています。今後、新たな規制が導入されることで、将来的に取引が制限されたり、事業環境が大きく変化したりする可能性も否定できません。

日本では暗号資産取引で得た利益に対して、他の金融商品と比較して高率な税金が課される現状があり、これも大きな短所として指摘されています。

銘柄の多様性がもたらすリスク

暗号資産は世界中に数えきれないほどの種類(銘柄)が存在します。中には、明確な利用価値や技術的裏付けに乏しいものもあり、取引を行う際の銘柄選定には高度な知識と慎重さが求められることになります。

さらに、開発者が突如として資金を持ち逃げする「ラグプル(Rug Pull)」と呼ばれる詐欺行為も問題となっており、安易な銘柄選定は、資産を瞬時に失うリスクと隣り合わせであることを強く認識すべきでしょう。

代表的な暗号資産

代表的な暗号資産

世界には数多くの暗号資産が存在し、その特性や目的は様々です。ここでは、代表的なものとして、以下の4種類の暗号資産について、その特徴を簡潔に紹介します。

  • ビットコイン(Bitcoin / BTC)
  • イーサリウム(Ethereum / ETH)
  • XRP
  • ソラナ(Solana / SOL)

これらはほんの一例に過ぎず、価値の安定性やプライバシー保護といった特定の機能に着目したものなど、多種多様な暗号資産が日々開発されているのが現状です。

ビットコイン

P2P(ピア・ツー・ピア)ネットワーク上で、中央管理者を介さずに価値を移転する「電子キャッシュシステム」として考案され、2009年に運用が開始された、世界で最初の暗号資産です。最も有名な暗号資産でもあり、約2,100万枚という発行上限が定められていることから、「価値の保存手段(デジタル・ゴールド)」とも呼ばれます。

2021年には、中米のエルサルバドルが、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したことが話題を呼びました。

イーサリアム

2015年に公開された暗号資産で、「スマートコントラクト」という技術を最大の特徴としています。

これは、あらかじめ設定されたルールをブロックチェーン上で自動的に実行するプログラムであり、これによりDeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)といった新たな分散型アプリケーションを生み出す基盤となりました。

XRP(リップル)

XRPは、国際送金ネットワーク「RippleNet」上で利用される暗号資産です。

現在、国際送金システムの主流は「SWIFT」ですが、同システムが抱える時間的・コスト的な課題を解決し、より高速で安価な国際送金を可能にすることを目的として、XRPは開発されました。その目的が示すように、他の暗号資産に比べて、送金コストの安さや、送金速度の速さが特徴となっています。

ソラナ

ブロックチェーン技術を使ったアプリケーションの開発環境を提供する、プラットフォームとしての役割も持つのがソラナです。

同じようにプラットフォームとしての役割を併せ持つ暗号資産として、イーサリアムがありますが、イーサリアムに比べて高速な取引処理能力と低い手数料を実現し、注目を集めています。

暗号資産の歴史と有名事件

暗号資産の歴史と有名事件

暗号資産の歴史は、技術的な革新と、それを悪用した事件や市場の混乱、そしてそれに対応する規制強化の歴史でもあります。

1.ビットコインの誕生

暗号資産の発祥は諸説ありますが、その直接的な起源は、2008年10月に「サトシ・ナカモト」を名乗る人物がインターネット上に投稿した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン:P2P電子キャッシュシステム)」に求められます。この論文で提示された、中央銀行や金融機関を介さずに個人間で直接価値を移転できる分散型ネットワークの構想が、翌2009年1月のビットコインの運用開始によって具現化しました。

当初、ビットコインは暗号技術者やサイファーパンクと呼ばれる小規模コミュニティを中心に、実験的なプロジェクトとして認知されるに過ぎなかったのです。しかし、2010年代に入ると、その革新性や非中央集権的な思想が評価され、専門的な「取引所」が立ち上がり始めました。

しかし、技術的・規制的な未成熟さゆえに、初期の暗号資産市場は大きな課題を抱えていたといわざるを得ません。その脆弱性が世界中に露呈したのが、2014年に発生した「マウントゴックス事件」です。

出典:ビットコイン「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(Satoshi Nakamoto)」

2.マウントゴックス事件とリスクの露呈

2014年、東京に拠点を置き、世界のビットコイン取引の約7割を扱っていた世界最大の取引所「マウントゴックス(Mt. Gox)」が、大規模なサイバー攻撃などにより数百億円規模のビットコインを流出させ、経営破綻に至りました。

この事件は、暗号資産がハッキングのリスクと常に隣り合わせであること、そして何より「取引所」という利用者の資産を預かる事業者の信頼性がいかに重要であるかを白日の下に晒したのです。

マウントゴックス事件は、各国政府が暗号資産に対する規制を検討する直接的な契機となりました。日本においても、事件発生後の2015 年3月に開催された金融庁の「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」で、出席した委員から「利用者保護の観点から規制を考えていくべきではないか」などの発言がなされ、暗号資産に対する規制のあり方について本格的な議論が行われていくことになります。

出典:金融庁「金融審議会「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」(第11回)議事録」

3.成長と事件、規制強化の時代へ

マウントゴックス事件の後も、暗号資産市場は成長と混乱を繰り返します。

日本において、規制強化の第二のターニングポイントとなったのが、2018年1月に発生した「コインチェック事件」でした。国内大手交換業者であったコインチェックがハッキングを受け、当時約580億円相当の暗号資産「NEM(ネム)」が流出した事件です。

マウントゴックス事件の教訓が生かされず、顧客資産がインターネットから隔離されていない「ホットウォレット」で管理されていたことなど、コインチェック事件では、事業者のセキュリティ体制や内部管理体制の杜撰さが厳しく問われました。

この事件を受け、金融庁は、交換業者に対する立入検査を強化し、業務改善命令を相次いで発出しました。コインチェック事件後、日本における暗号資産を取り巻く環境は、サイバーセキュリティ体制の抜本的な強化と、AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)の厳格化を強く求める、本格的な規制強化の時代へと突入します。

出典:金融庁「仮想通貨交換業者に対するこれまでの対応等(2018年9月12日)」

4.今後の持続的な発展に向けて

その後も、暗号資産を巡る事件はたびたび起きています。記憶に新しいところでは、2022年11月に発生した世界的な巨大交換業者「FTX」の経営破綻が挙げられるでしょう。ずさんな財務管理と顧客資産の不正流用が明らかになり、創業者サム・バンクマン=フリード氏は、詐欺罪などで有罪判決を受けました。

この事件は、たとえ世界最大級の事業者であっても、その経営の透明性やガバナンスが確保されていなければ、信頼できないことを示しました。これにより、顧客資産の厳格な分別管理の徹底が、グローバルな規制における最重要課題として改めて認識されることとなったのです。

暗号資産を巡る数々の歴史的事件は、急速に発展する暗号資産市場が内包するリスクを顕在化させました。そして、暗号資産が投機的な対象に留まらず、持続的に発展していくためには、利用者保護、市場の透明性確保、そして国際的な金融犯罪防止対策が不可欠であることを示す教訓となりました。

日本における法律上の位置付け

日本における法律上の位置付け

暗号資産の誕生以来、発生してきた数々の事件や、国際的な議論を踏まえ、日本における暗号資産の法的な位置付けも変化を続けてきました。その中でもターニングポイントとなったのが、以下の二度の法改正です。

  • 資金決済法の改正(2016年)
  • 資金決済法と金融商品取引法の改正(2019年)

資金決済法の改正(2016年)

日本において初めて暗号資産を法的に位置付けたのは、マウントゴックス事件後の議論を経て、2016年に改正され、翌2017年4月1日に施行された改正資金決済法です。

この法律により、「仮想通貨」という呼称が法的に定義され、仮想通貨と法定通貨の交換サービスを行う「仮想通貨交換業者」に対して、金融庁への登録制が導入されました。

この時点で、暗号資産を明確に法規制の枠内に取り込んだ国は世界的にも稀であり、日本の対応は非常に先進的なものであったといえます。

同法では、暗号資産を「代価の弁済のために使用することができる」「財産的価値」と定義しました。どのような経緯であれ、これは国家が暗号資産を単なる電子データではなく、決済手段、ひいてはマネーサプライの一部として法的に認識した、重要な一歩であったといえるでしょう。

出典:金融庁「暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について」

資金決済法と金融商品取引法の改正(2019年)

2018年のコインチェック事件や、2019年にG20(主要20ヵ国・地域)議長国として日本が議論を主導したことなどを経て、暗号資産への規制のさらなる強化と精緻化が図られます。2019年に改正され、2020年5月に施行された改正資金決済法および改正金融商品取引法(金商法)は、その集大成となりました。

この改正における主要な変更点は以下の通りです。

  • 「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称を変更
  • 有価証券と同様の性質を持つ暗号資産が、金商法の規制対象であることを明確化
  • 交換業者に対し、流出リスクの低い「コールドウォレット」での管理を義務化
  • 暗号資産を用いたレバレッジ取引の上限を2倍に制限(個人の場合)
  • 誇大広告や不適切な勧誘行為を規制

このように、日本における法制度は、まず「決済手段」として資金決済法で規制し、その後「投資対象」としての側面に着目して、金商法による規制を一部導入するというアプローチで、整備が進められてきました。

とはいえ、民法上の財産権の問題や、暗号資産の技術的な特性に対する法的効力など、様々な面で、いまだに法的な取り扱いは暫定的なものに過ぎないのが現状です。

出典:金融庁「暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について」

日本における税務上の取り扱い

日本における税務上の取り扱い

法制度と並んで、あるいはそれ以上に、暗号資産の普及と発展に大きな影響を与えてきたのが、税務上の取り扱いです。

この項では、以下の3テーマに沿って、暗号資産を巡る現在の税務と、その課題を解説します。

  • 暗号資産の税務(2025年12月時点)
  • 暗号資産を巡る税制上の課題
  • 暗号資産を巡る税務執行上の課題

暗号資産の税務(2025年12月時点)

暗号資産市場が急拡大した2017年、国税庁は暗号資産に関する「FAQ(よくある質問)」、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」を公表します。

それまで暗号資産を巡る税務は不明確であったところ、これらの資料において、個人が暗号資産の売却や利用(決済)によって利益を得た場合、原則として所得税の「雑所得」に区分されることが明確化されました。

日本の所得税法において、所得は10種類に区分されます。そのうち、株式の譲渡益や配当、FX(外国為替証拠金取引)の利益など(いわゆる「金融所得」)は、原則的な所得税法の取扱いとは別に、租税特別措置法の規定により、他の所得(給与所得や事業所得など)とは合算せず、独立して一定の税率(住民税と合わせて20.315%)で課税される「申告分離課税」が適用されています。

しかし、国税庁は、暗号資産の利益は「雑所得」として、給与所得など他の所得と合算した総所得金額に対して課税される「総合課税」の対象だと認定しました。総合課税は、所得が多ければ多いほど税率が上がる累進課税が採用されており、住民税と合わせると最高で55%の税率が適用されることとなります。

出典:国税庁「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(平成29年12月1日)」

暗号資産を巡る税制上の課題

暗号資産の利益を「雑所得」「総合課税」とする取り扱いに対して、投資家や事業者からは「日本の暗号資産市場の発展を妨げている」との声が上がっています。具体的には、上記の取り扱いにより、株式やFXと比べて、暗号資産には以下のような不利が生じます。

高すぎる税率

株式やFXが約20%の税率であるのに対し、暗号資産は最大55%という高税率が課されます。これにより、利益が出ても半分以上が税金で失われる可能性があり、投資インセンティブを著しく削いでいるといわれます。

損益通算・繰越控除の制限

株式投資などで損失が出た場合、他の株式投資の利益と相殺(損益通算)したり、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越して将来の利益と相殺(繰越控除)したりすることが認められています。

しかし、暗号資産(雑所得)の損失は、給与所得など他の所得と損益通算できず、雑所得の中でしか通算できません。さらに、損失を翌年以降に繰り越すことも一切認められていません。

暗号資産同士の交換に課税

暗号資産に所得税が課税されるタイミングは、暗号資産を売却して日本円に換金した場合だけではありません。現行税制では、他の暗号資産に交換した場合にも、その時点での時価で利益が実現したものとみなされ、課税対象となります。

例えば、取得時100万円だったビットコインが値上がりし、時価1億円になった時点で、それをすべて時価1億円分のイーサリアムに交換したとします。この場合、手元に日本円の現金(キャッシュ)は一切入ってきていないにもかかわらず、「1億円 – 100万円 = 9,900万円」の利益が確定したとみなされ、この9,900万円が雑所得として課税対象となります。

日本で暗号資産ブームが巻き起こった2017年~2018年にかけて、「億り人」と呼ばれる億万長者が多数生まれましたが、彼らの多くがこのルールを把握していませんでした。手元に納税資金がないにもかかわらず、確定申告で多額の所得税を課され、さらに悪いことに、納税時期には保有する暗号資産が暴落しており、納税資金を捻出できない破産者が続出したといわれます。

暗号資産を巡る税務執行上の課題

暗号資産は、税務行政の執行、すなわち税金の徴収という観点からも、特有の難しさを抱えています。

例えば、税金を滞納した納税者がいた場合、税務署は預金や不動産、株式といった財産を差し押さえることができます。しかし、暗号資産に関しては、差し押さえにかかる法的な位置づけの曖昧さや技術的な問題などにより、実務上差し押さえが困難なケースが少なくありません。

例えば、納税者が全財産を暗号資産に変換し、それを自己管理型のウォレット(秘密鍵を自分で管理するウォレット)に移してしまった場合、どうなるでしょうか。 暗号資産の移転には「秘密鍵」が必要不可欠ですが、この秘密鍵は納税者の頭の中や、特定のハードウェアにしか存在しない可能性があります。税務当局がその秘密鍵の開示を強制する法的な手段や、技術的にそれを差し押さえる方法は、現状では確立されていません。

EUの法制と取り組み

EUの法制と取り組み

暗号資産を巡る課題は、日本特有のものではなく、世界共通のものです。そのため、各国・地域において、それぞれ規制の枠組み作りが進められています。

EU(欧州連合)では近年、MiCA(Markets in Crypto Assets Regulation:暗号資産市場規制)と呼ばれる、暗号資産に対する包括的な規制ルールの成立が進められてきました。MiCAは2023年に欧州議会で承認され、2024年12月30日から本格的に施行されています。

MiCAの最大の特徴は、EU加盟27ヵ国全域に適用される「統一的な規制枠組み」である点にあります。主な目的は以下の通りです。

  • 投資家(利用者)保護の強化
  • 金融の安定性と市場の完全性の確保
  • 金融犯罪(マネーロンダリング等)の防止
  • EU単一市場と国際競争力の強化

具体的には、暗号資産の発行体や交換業者・管理業者といった、暗号資産サービスを提供する事業者に対し、EU域内で事業を行うための統一的なライセンス制度を導入しました。規制するだけでなく、いずれかの加盟国でライセンスを取得すれば他のEU諸国でもサービスを提供できるパスポート制度を導入するなど、事業者の利便性向上とイノベーション促進も目指しています。

ただし、MiCAは非常に広範かつ詳細な規制であるため、その施行後も、国によって監督当局の執行体制や解釈に格差が生じるのではないかとの懸念も出ています。加盟国の中から早くも見直しを求める声が上がるなど、EUの取り組みも依然として不安定な状態が続いていることが伺えます。

出典:欧州証券市場監督局(ESMA)「Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA)」

米国の法制と取り組み

米国の法制と取り組み

米国における暗号資産規制は、今まさに大きな転換点にあるといえます。というのも、2025年1月に再登板したトランプ大統領が、就任早々「米国を暗号資産の首都にする」と宣言し、国家戦略として暗号資産を推進する政策を複数打ち出しているためです。ビットコインを国の資産として備蓄する構想や、銀行による暗号資産の不当な取引拒否を防ぐ大統領令を発令する一方、暗号資産の普及を促進するための関連法案が現在、議会で審議されています。従来の民主党政権(バイデン政権)の慎重な姿勢とは一線を画す、積極的かつ規制緩和的な取り組みを進めているといえるでしょう。

ただし、こうした取り組みは必ずしもスムーズに進むとは限らず、今後、米国では、SEC(証券取引委員会)など既存の規制当局による厳格な監督姿勢と、大統領府や議会の一部にあるイノベーション推進・産業保護の動きが交錯することになるかもしれません。

その他の国際的な規制の動向

その他の国際的な規制の動向

暗号資産は国境を容易に越えるため、一国だけの規制では不十分です。国際的な協調が不可欠であり、そのためのルール作りも進んでいます。

例えば、38の国・地域が加盟する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)は、暗号資産を悪用した金融犯罪を防ぐため、「トラベルルール(Travel Rule)」の実施を各国に義務付けています。これは、送金元の交換業者が「送金依頼人」と「受取人」の情報を把握し、送金先の交換業者に通知しなければならないルールで、伝統的な銀行送金と同様に、暗号資産の取引の追跡可能性を高め、匿名性を悪用した犯罪を抑止することを目指しています。日本でも、このFATF勧告に基づき、交換業者間のトラベルルール対応が義務化されました。

また、OECD(経済協力開発機構)は2023年、CARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)を公表しました。 これは、各国の税務当局が、国内の暗号資産交換業者などから収集した「非居住者」の取引情報を、その非居住者が居住する国の税務当局と自動的に交換するための新たな国際基準です。 すでに銀行口座情報などで導入されているCRS(共通報告基準)の暗号資産版ともいえるものであり、CARFの導入により、暗号資産を利用した国際的な租税回避を防ぐための包囲網が構築されつつあります。

出典:金融庁「暗号資産・電子決済手段の移転に係る通知義務(トラベルルール)」
出典:国税庁「暗号資産等報告枠組み(CARF)に基づく自動的情報交換に関する情報」

令和8年度税制改正に向けた議論

令和8年度税制改正に向けた議論

こうした国際的な規制整備の潮流の中で、日本のスタートアップ企業や投資家、経済団体は、現在の暗号資産を巡る法制度、とりわけ税制が抱える課題を強く指摘してきました。すなわち、「雑所得による高税率(最大55%)」「損益通算・繰越控除の制限」といった税制上の重荷が、優秀な起業家やエンジニア、資本の海外流出を招き、日本の国際競争力を著しく低下させているという主張です。

そこで、現在行われている令和8年度(2026年度)税制改正に向けた議論では、ついに根本的な問題にメスが入れられようとしています。

議論の核心は、暗号資産の法的な「位置付け」そのものの見直しです。 現在は、資金決済法上の「決済手段」として主に扱われている暗号資産を、金融商品取引法上の「金融商品」として定義することが検討されています。暗号資産を事実上、株式や証券、FXといった他の金融商品・投資商品と同列に扱うことを意味するものです。

もし、この改正が実現した場合、税務上の取り扱いも変わることが想定されます。個人が暗号資産の譲渡(売却・交換)によって得た利益は、現在の「雑所得」から、株式等と同様の「金融所得」となり、一律20.315%の「申告分離課税」に変更される可能性があります。 同時に、株式など他の金融商品との損益通算や、損失の繰越控除も可能となると期待されています。

具体的な改正内容は、2025年末に決定される税制改正大綱を待つほかありませんが、「イノベーションの推進」と「利用者保護・市場の公正性確保」のバランスを、いかに高い次元で両立させるかが、制度設計における最重要課題となるでしょう。

まとめ

暗号資産(仮想通貨)を巡る制度は今後どうなるのか? 歴史、法制度、税務などの観点から解説

現在、日本を含む世界各国は、暗号資産が持つ特有のリスクを管理しつつ、いかにしてイノベーションの果実を取り込むかという難題に直面しています。法的な位置付け、税務上の取り扱い、そして国際的な犯罪防止の枠組みなどが絡み合い、暗号資産を取り巻く制度は、今後も目まぐるしく変化していくことが予想されます。

特に、令和8年度税制改正は、日本の暗号資産の未来にとって重大な分岐点となる可能性があり、その動向が注目されます。